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補ポテンシャルエネルギー停留原理

補ポテンシャルエネルギー停留原理を示す前に,いくつかの用語を 説明しよう.

補ポテンシャルエネルギー(Complementary Potential Energy) とは,静力学的に許容な系 $(\mbox{\boldmath$F$ }, N)$ を変数として次のように 定義された関数 $\Pi^*$ である.

 
$\displaystyle \Pi^*(\mbox{\boldmath$F$ },N) = \sum_{I : {\scriptsize {全ての\at...
... {変位が既知\atop な節点}}}
\mbox{\boldmath$u$ }_i^0\cdot\mbox{\boldmath$F$ }_i$     (11)

ここで, $\mbox{\boldmath$u$ }_i^0$ は境界条件として与えられた変位である. また,W*(N) は補ひずみエネルギーと呼ばれ,
 
$\displaystyle W^*(N) = \int\delta(N) dN$     (12)

と定義されるものである.$\delta(N)$ は構成関係によって N から 求められたのびである.前提として,構成関係が N だけの関数である, すなわち弾性体を考えているということに注意されたい. なお,ひずみエネルギーというのは,
 
$\displaystyle W(N) = \int N(\delta) d\delta$     (13)

と定義されるものである.

さて,線形弾性トラスの場合の構成関係は,

$\displaystyle \delta = \frac{N \ell}{AE} +\delta_0$     (14)

と表された. ここで,$\delta_0$ は熱などによるのびを表している (なければ,当然 0).この式を式(12)に代入して, 積分を実行すれば,線形弾性トラスの補ひずみエネルギーは次のように表される.
 
$\displaystyle W^*(N) = \frac{N^2 \ell}{2AE} + \delta_0 N$     (15)

ひずみエネルギーの物理的な意味はほぼ明らかであるが, 補ひずみエネルギーの物理的な意味は一般にはわかりにくい.しかし, 線形弾性のときには,Fig 1.54 より, W*(N) = W(N) となることがわかる. つまりひずみエネルギーと一致する.

  
Figure 1.54: 線形弾性の場合の W W* の関係
\begin{figure}
\begin{center}
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\epsfxsize=5cm
\epsffile{fig3-14.ps}
\end{center}\end{figure}

なお,ポテンシャルエネルギー $\Pi$ とは, 幾何的に許容な $(\mbox{\boldmath$u$ }, \delta)$ の関数として,

$\displaystyle \Pi(N) = \sum_{I : {\scriptsize {全ての\atop 部材}}} W(\delta)
- ...
...ze {力が既知\atop な節点}}}
\mbox{\boldmath$F$ }_i^0\cdot\mbox{\boldmath$u$ }_i$     (16)

と定義されるものである.これは,変位法の解析に用いられる.

定理    補ポテンシャルエネルギー停留原理 : 不静定構造における静力学的に許容な部材力のうち, 正解(構成関係から得た変形の系が幾何的に許容であるもの) は補ポテンシャルエネルギーを停留にする. すなわち,不静定力 ni( $i=1,2,\cdots$)を含んだ 静力学的に許容な $(\mbox{\boldmath$F$ }(n_i)$, N(ni)) の補ポテンシャル エネルギー $\Pi^*(\mbox{\boldmath$F$ }(n_i), N(n_i))$
$\displaystyle \frac{\partial \Pi^*}{\partial n_i} = 0\quad\quad\quad i=1,2,\cdots$     (17)

を満たす.
なお,構造力学の多くの問題(支点沈下がない問題)では, $\mbox{\boldmath$u$ }_i^0 = {\bf0}$ である.したがって,

\begin{eqnarray*}\Pi^* = \sum_I W^*(N_I) - \sum_i \mbox{\boldmath$u$ }_i^0 \cdot \mbox{\boldmath$F$ }_i
= \sum_I W^*(N_I)
\end{eqnarray*}


となる.また,部材の構成関係が線形ならば,W* = W であったから,

\begin{eqnarray*}\Pi^* = \sum_I W(\delta_I)
\end{eqnarray*}


となり,$\Pi^*$ はひずみエネルギーになる. このため,補ポテンシャル停留原理の事をしばしば最小仕事の原理という.

さて,補ポテンシャル停留原理の証明を与えよう.

[証明]まず,式(11)を不静定力(の一つ) n で微分すると,

\begin{eqnarray*}\frac{\partial \Pi^*}{\partial n} &=&
\frac{\partial}{\partial...
...$ }_i^0 \cdot \frac{\partial \mbox{\boldmath$F$ }_i}{\partial n}
\end{eqnarray*}


となる.ここで, $\displaystyle W^* =\int\delta dN$ よ り $\displaystyle\frac{\partial W^*}{\partial N_I} = \delta_I$ であるから,

\begin{eqnarray*}\frac{\partial \Pi^*}{\partial n} &=&
\sum_I \delta_I \frac{\p...
...$ }_i^0 \cdot \frac{\partial \mbox{\boldmath$F$ }_i}{\partial n}
\end{eqnarray*}


と書ける.ここで,変位が未知な節点とは力が既知な節点なので, そこでは $\displaystyle\partial \mbox{\boldmath$F$ }_i /\partial n ={\bf0}$ が成立している. したがって,i に関する和は全節点に渡って取ってもよい.したがって

\begin{eqnarray*}\frac{\partial \Pi^*}{\partial n} &=&
\sum_I\delta_I\frac{\par...
...ath$u$ }_i\cdot\frac{\partial\mbox{\boldmath$F$ }_i}{\partial n}
\end{eqnarray*}


となる.ここで,`` $\displaystyle\left(\frac{\partial N_I}{\partial n},
\frac{\partial\mbox{\boldmath$F$ }_i}{\partial n}\right)$ は, 外荷重$={\bf0}$ のつりあい系 である($\star$)'' という事実(後述)と $(\delta_I,\mbox{\boldmath$u$ }_i)$ は適合系でなければ ならないから,仮想仕事の原理によって,

\begin{eqnarray*}\frac{\partial \Pi^*}{\partial n} = 0
\end{eqnarray*}


が成立する.
[証明終]

さて,上の ($\star$) を証明しよう. まず, $(\mbox{\boldmath$F$ }(n), N(n))$ が静力学的に許容であることを仮定しているから,

\begin{eqnarray*}\mbox{\boldmath$F$ }_i = \sum_I \mbox{\boldmath$n$ }_{iI} N_I
\end{eqnarray*}


が成立している.これを n で微分すると,

\begin{eqnarray*}\frac{\partial\mbox{\boldmath$F$ }_i}{\partial n}
=\sum_I\mbox{\boldmath$n$ }_{iI}\frac{\partial N_I}{\partial n}
\end{eqnarray*}


を得る.この式は, $\displaystyle\left(\frac{\partial \mbox{\boldmath$F$ }_i}{\partial n},
\frac{\partial N_I}{\partial n} \right)$ がつりあい系であることを 意味している.しかも,力が既知な節点では $\mbox{\boldmath$F$ }_i$n によらないので,

\begin{eqnarray*}\frac{\partial \mbox{\boldmath$F$ }_i} { \partial n} = {\bf0}
\end{eqnarray*}


が成立する.すなわち,外荷重は0である.以上より, $\displaystyle\left(\frac{\partial \mbox{\boldmath$F$ }_i}{\partial n},
\frac{\partial N_I}{\partial n} \right)$ $外荷重={\bf0}$ の つりあい系であることが証明された.

補ポテンシャルエネルギー停留原理は不静定トラスの仮想仕事による 解法と全く等価であるが, ``覚えやすい'',``一つのスカラー量 $\Pi^*$ だけ を考えればよい'' 等の利点があるために広く用いられている (構造力学ではこれで十分?).しかし,構成関係を弾性体 ( $\delta=f(N)$) に 限定している点で,仮想仕事の原理よりも適用範囲が狭いのだという ことをもう一度注意しておこう.

さて,補ポテンシャルエネルギー停留原理によってトラスを解いてみよう.

例題 16
Fig 1.55 のトラスの部材力を決定せよ.
  
Figure 1.55: 断面積 A,Young率 E
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\epsfxsize=6cm
\epsffile{fig3-15.ps}
\end{center}\end{figure}

力のつりあいと境界条件より部材力が次のように求まる(Fig 1.56 ).
  
Figure 1.56:
\begin{figure}
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\epsfxsize=5cm
\epsffile{fig3-16.ps}
\end{center}\end{figure}

これより,

\begin{eqnarray*}\Pi^* &=& \frac{\ell}{2AE}\left( \frac{P-n}{\sqrt{2}} \right)^2 \times 2
+\frac{\ell / \sqrt{2}}{2AE} n^2 -0
\end{eqnarray*}


となる.これに補ポテンシャルエネルギー停留原理を適用すると,

\begin{eqnarray*}\frac{\partial \Pi^*}{\partial n} &=& \frac{\ell}{AE} \left( n-P \right)
+\frac{\ell / \sqrt{2}}{AE}n =0
\end{eqnarray*}


である.ゆえに,

\begin{eqnarray*}n = \frac{P}{1+ 1/\sqrt{2}}
\end{eqnarray*}


を得る.これは例題12の解と一致することを確認せよ.

例題 17
Fig 1.57 のトラスの中央の支点が $\Delta$ だけ上昇した時の 部材力を決定せよ.
  
Figure 1.57: 断面積 A,Young率 E
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\epsfxsize=6cm
\epsffile{fig3-17.ps}
\end{center}\end{figure}

静力学的に許容な部材力は
  
Figure 1.58:
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\epsfxsize=5cm
\epsffile{fig3-18.ps}
\end{center}\end{figure}

Fig 1.58 のようになる.ここで,変位の境界条件は
  
Figure 1.59:
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\epsfxsize=5cm
\epsffile{fig3-19.ps}
\end{center}\end{figure}

Fig 1.59 のようであることに注意すると,補ポテンシャルエネルギーは,

\begin{eqnarray*}\Pi^* = \frac{\ell}{2AE}\left( - \frac{n}{\sqrt{2}} \right)^2 \...
...frac{\left( \sqrt{2}+1 \right)n^2 \ell}{2 \sqrt{2} AE} -n \Delta
\end{eqnarray*}


と計算される.これに補ポテンシャルエネルギー停留原理を適用すると,

\begin{eqnarray*}\frac{\partial \Pi^*}{\partial n} =
\frac{\left( \sqrt{2}+1 \right)n \ell}{ \sqrt{2} AE} - \Delta = 0
\end{eqnarray*}


となるから,

\begin{eqnarray*}n = \frac{\sqrt{2} ~\Delta ~AE}{\left( \sqrt{2}+1 \right) \ell}
\end{eqnarray*}


を得る.

例題 18
Fig 1.60 のトラスの右側の部材の温度が $\Delta t$ だけ 上昇した時の部材力を決定せよ.
  
Figure 1.60: 断面積 A,Young率 E
\begin{figure}
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\epsfxsize=6cm
\epsffile{fig3-21.ps}
\end{center}\end{figure}

静力学的に許容な部材力は
  
Figure 1.61:
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\epsfxsize=6cm
\epsffile{fig3-22.ps}
\end{center}\end{figure}

Fig 1.61 のようになる.これより,補ポテンシャルエネルギーは,

\begin{eqnarray*}\Pi^* =
\underbrace{\frac{\ell}{2AE}\left(-\frac{n}{\sqrt{2}} ...
...2}} \right)^2
+\delta_0 \left(-\frac{n}{\sqrt{2}} \right)}_{右}
\end{eqnarray*}


と計算される.これに補ポテンシャルエネルギー停留原理を適用すると,

\begin{eqnarray*}\frac{\partial \Pi^*}{\partial n} &=& \frac{\ell}{2AE} 2n
+\frac{\ell}{\sqrt{2}AE} n - \frac{1}{\sqrt{2}} \delta_0 = 0
\end{eqnarray*}


となるから,

\begin{eqnarray*}n = \frac{AE}{\left( \sqrt{2}+1 \right)\ell}\delta_0
= \frac{AE}{\sqrt{2}+1}\alpha\Delta t
\end{eqnarray*}


を得る.


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Ken-ichi Yoshida
2001-04-18