静力学的に許容な系とは、与えられた境界条件のうち、節点力に関係するもの だけを満たす釣合系のことを言う。幾何学的に許容な系とは異なり、静力学的 に許容な系を構成することは一般にはさほど容易ではない。と言うのは一般に は不定方程式を解かなければ静力学的に許容な系を決定できないからである。 (とは言っても、従来の構造力学の教科書はほとんどが静力学的に許容な系を 構成することは比較的容易であると言う立場で書かれている。これは手計算で 解ける程度のトラス問題についてはある程度真であるが、一般には上述のよう に「容易ではない」と言わざるを得ない)
静力学的に許容な系の求め方の一般論は次のようである。
今、節点力
を並べたベクトル
を導入する。
さらに を既知の成分と、未知の成分とに並べ変えると、
(1.7)で導入した行列 Q を用いることによって
となる。ここに、、
はそれぞれ既知の節点力成分、
未知の節点力成分である。前者は荷重、後者は反力と呼ばれる。
未知の節点変位成分の数 m は与えられた節点力の成分の数に一致する。
式(1.5)は明らかに
と書ける。従ってある釣合系が静力学的に許容であるためには、(1.9)、 (1.10)、(1.11)より
でなければならない。以上より、一般に、静力学的に許容な系とは、
(1.12)を満たす から(1.11)によって構
成される釣合系であると言うことができる。従って、静力学的に許容な系では、
反力は
によって計算される((1.9)、(1.10)、 (1.11)参照)。
さて、あるトラスは任意の に対して(1.12)を満たす
が存在する時、安定であると言う。そうでない時は不安定であると
言う。有限次元のFredholmのalternativeより、安定性の条件は
と書くことができる。従って(1.9)より、安定
なトラスとは、与えられた節点変位
が
のとき、全ての
部材ののびが0になるような
でない節点変位は存在しないよ
うなトラスである。また、安定なトラスとは
(従って
)を満たすトラスであるとも言える。従って、例えば、ある線形弾性
トラスが安定であるときには、支点変位がない(
)場合、
支点以外の節点を動かすと(より正確には
とすると)必ず何らかの部材力が生じ、不安定であるときには部材力を生じさ
せない様に支点以外の節点を変位させることができる。
安定なトラスにおいて、数 を不静定次数と言う。不静
定次数が0のトラスを静定トラスと言う。静定トラスにおいては行列 B は正
則である。従って、(1.9)より、静定トラスとは、部材ののび
を任意に与えても、それを実現する節点変位が唯一存在するトラスであると言
うことができる。このため、静定トラスには初期不整を与えても残留応力は発
生しない。不静定トラスにおいては方程式(1.12)の解は不静定次数
(
)個の任意定数を除いて決定する。実際、(1.12)の解
は
と書ける。ここに、 は(1.12)の任意の解(安定トラス
では必ず存在する)、
(
)は
を満たす、互いに独立な(従って でない)ベクトル、
は任意定数であり、不静定力と呼ばれる。以上を少し整理して、静力学的に許
容な部材力は
と書ける。S は を満たす (
) 型のfull rankの行列
である。
トラスの境界値問題は変形の系が幾何学的に許容であり、力の系が静力学的に 許容であり、それらが構成関係で結ばれているような変形と力の系を決定する 問題であるということができる。