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多重極法(FMM)は,Rokhlin[1]の積分方程式の研究に端を発し, Greengard[2]らによって多体問題に応用され,未知数の多い問 題に有利な数値計算の手法のひとつとして発達してきた.今では,境界積分方 程式や天文学などの多体問題[3]だけでなく,分子動力学 [4]の分野でも使われている.従来の境界積分方程式法では n個 の要素に対して,それらの相互の影響を計算する時に O(n2) の計算量が必 要となり,直接法によって代数方程式を解くと O(n3) の計算量が必要であ る.一方,多重極法では要素相互の影響を計算する時に,近傍の要素に対して は従来どおり直接計算を用いるが,離れた要素からの影響は多重極モーメント, 局所展開係数などを用いて計算する.これを反復法による線形方程式の解法と 結び付けると,反復一回あたりの計算量は $O(n^{1+\alpha}
\log^{\beta}n)(\alpha,\beta \ge 0, \alpha < 1)$ 程度になる.このため, 多重極法は大規模問題の解法として有望であると考えられる.最近の積分方程 式に関連する研究としては,Laplace方程式では,速水ら[5],西村 ら[6],静弾性問題では,福井ら[7],Fuら[8], 高橋ら[9],吉田ら[10,11]等がある.特に Helmholtz方程式への多重極法の適用に関する研究は,diagonal form を用い たものが盛んでRokhlin[12][13],福井ら [14],Chewら[15],Gyureら[16],Eptonら [17]などがある(diagonal form を用いた研究が盛んな理由について は4.1で述べる).しかし,Rokhlinの diagonal form は Laplace方程 式や[18] Helmholtz方程式で周波数が高くない場合[19] には数値的に不安定である事が知られている.これを解決する方法としては, 従来型の多重極法を用いること,及び,数値的不安定を生じない新しい多重極法 を用いることが考えられる.後者の試みとして,Hrycak and Rokhlin が2次元 Laplace 方程式,Greengard and Rokhlin,Chengらが3次元Laplace 方程式, Greengardらが3次元 Helmholtz 方程式において,それぞれ改良型の新しい diagonal form を提案している[20,21,22,23].これ らの新しい diagonal form では,従来型の多重極法で用いられたM2MやL2Lの 道具が必要となり,これを用いた数値手法の開発が必要である[24]. しかし,3次元周波数域動弾性方程式の積分方程式への多重極法の適用は,著 者らの知る限りでは Rokhlinのdiagonal form による解析が Fujiwara[25]によって行われているのみで,従来型の多重極法で3 次元解析が行われた例は無い.そこで,本論文では,3次元周波数域動弾性方 程式を支配方程式とするクラックによる散乱問題において,従来型の多重極法 の定式化を試みる.従って,周波数が低い場合を取り扱い,数値解法 としては選点法,形状関数としては区分一定要素,代数方程式の解法として は反復法のGMRESを用いている.数値実験の結果,未知数が数千(波数に依存す る)の問題では従来法より多重極法が高速であることが結論される.

Ken-ichi Yoshida
2000-08-31